胆道閉鎖症とは

(1) はじめに

胆道閉鎖症は、新生児および乳児期早期に発症する病気で、肝臓でつくる胆汁という消化液を十二指腸へ流すための通り道である胆管が、閉塞、破壊または消失するために、肝臓から腸へ胆汁を出せない病気です。生まれてくる子どものうち約1万人に1人がかかる稀な病気で、女の子の方が男の子の2倍多く発生します。病気の原因は不明です。

正常
Ⅰ型
Ⅰ cysc型
Ⅲ型
Ⅲ型

(2) 胆道閉鎖症の概略

1. 症状

胆道閉鎖症の主な3つの症状は生後14日経過しても続いている黄疸(皮膚や目の白目の部分の黄染)、便色異常(薄い黄色からクリーム色)、濃黄色尿です。

新生児の90%に見られる生理的黄疸は生後14日までに肉眼上消失します。しかし胆道閉鎖症の場合には黄疸は消失せずに、逆に次第に強くなったり、一旦消失したものが再び出現したりします。

便色異常は胆道閉鎖症にもっとも特徴的な症状のひとつです。2012年からは母子健康手帳に便カラーカードが添付されるようになりました。こちらを参照して、便の色がおかしいようでしたら医療機関への受診が必要です。

濃黄色尿は、胆道閉鎖症では胆汁が腸に流れ出ないことから、便の色の素となる胆汁中の色素であるビリルビンが肝臓から血液中に逆流して、腎臓から尿中に出ることによるものです。

胆汁は脂肪の消化吸収に働くのですが、胆道閉鎖症の子どもは食物中の脂肪に溶けて一緒に吸収されるビタミンKが吸収されにくくなります。ビタミンKは血液の凝固を助けるので、これが不足すると出血しやすくなります。これにより脳や胃や腸といった消化管から出血を起こすことがあり、とくに脳内に出血すると脳性麻痺の原因となります。

2. 検査・診断

検査は血液検査、尿検査といった一般的な検査の他に腹部超音波検査、十二指腸液検査などを必要に応じて組み合わせて実施します。これらの結果から胆道閉鎖症を否定できない場合に、開腹手術を行い、直接胆道閉鎖の有無を確認します。

3. 治療

手術法には胆管の閉塞部を取り除いて胆汁の流出をはかる方法と肝臓自体を取り替える肝移植術がありますが,まず患者さんの胆汁流出をはかる方法を行うのが一般的です。この病気の胆管閉塞にはいろいろなタイプがあり,肝臓からの胆汁の出口となっている胆管(肝管)が十分開いているような場合は,これと腸管とを吻合する手術(肝管腸吻合術)が行われます.しかし,多くの場合には肝臓からの出口で胆管が既に閉塞しているので,肝臓の外の胆管をすべて取り除き,肝臓側の断端を腸管で被うように,肝臓そのものと腸管とを吻合する方法(肝門部腸吻合術または葛西手術)が行われます。腸管を用いて胆汁の流れ道を作る方法を胆道再建と呼びます。手術後肝臓の中の胆管に細菌感染が生じることによる上行性胆管炎という合併症を防ぐ目的で,施設によりいろいろな手術方法が工夫されています。

正常
Ⅰ型

この手術の第一の目標は黄疸を消失させること、第二の目標は黄疸が消失したら、自分の肝臓で長期生存することにあります。手術後は,胆汁の流出をよくする薬(利胆剤),細菌感染を予防する薬(抗生剤)などで治療が行なわれます.また退院後も利胆剤に加えて,ビタミン剤やカルシウム剤を飲むことが薦められています。

手術後,長い期間にわたって気をつけなければならない合併症として、胆管炎以外に門脈圧亢進症、肝内結石症、肝肺症候群などがあります。手術後も黄疸がなくならない場合や黄疸がなくなっても肝臓が徐々に硬くなるような場合には、やがて肝硬変となり、さらに肝不全に進みます。このような場合は腹水がたまったり栄養状態が悪くなって成長できなくなったりしますので,肝臓移植が必要となります。

4. 予後

日本胆道閉鎖症研究会による平成23年の全国登録によると、葛西手術1年後の成績は以下の通りです。黄疸なく生存している子どもが約56%、黄疸があるが生存している子どもが約7%、肝移植を受けて生存している子どもが約28%、死亡した子どもが約7%です。これは欧米のトップレベルの施設の成績と肩を並べるものです。手術により良好な胆汁排泄が得られ,肝臓の病変の進行が食い止められれば、その後の良好な QOL 期待できますが、術後きわめて長期間を経ての合併症出現もありますので、定期的な通院によるチェックが必要です。